「し」に濁点「ち」に濁点、「す」に濁点「つ」に濁点、どっちなの?

「はなじ」か「はなぢ」か?「じしん」か「ぢしん」か?

何かの事情で振り仮名を振らなければいけないとき、またはパソコンでローマ字打ちを使って日本語入力をしているときに、どう書くのか迷いがちな言葉というのがあります。

  • 鼻血は「はなじ」だっけ、「はなぢ」だっけ?
  • 地震は「じしん」だっけ、「ぢしん」だっけ?
  • 缶詰は「かんづめ」だっけ、「かんずめ」だっけ?

こういう言葉はどう書き分ければいいのでしょうか。今回はこの「じ・ぢ」と「ず・づ」について、もう迷わなくて済むようなルールを考えてみます。

 

「四つ仮名」は発音の区別がないから迷う

上に書いたようにどう書くのか迷ってしまう「じ・ぢ」と「ず・づ」は、合わせて「四つ仮名」と呼ばれているようです。

文字が違うので、元々は発音が違っていたらしく、「ぢ」は「di」(ディ)、「づ」は「du」(デュ)のような感じで発音していたと考えられているようです。

室町時代ごろまでは、京都ではかなりはっきりした区別がされていたらしいことが文献から判明しているそうです。

ところが似ていることもあって、だんだん同じような発音になっていき、17世紀ごろには共通語としては発音上の区別がなくなってしまいました。

確かに現在の共通語では、まったく発音上は区別しません。

この発音上は区別がまったくないのに、文字では区別があるという一種矛盾した状況が、私たちに「あれ、どう書くんだっけ?」と迷わせる原因になっています。

 

 

濁音をつけない場合を考えればいいという考え方

しかし、清音を考えれば分かるではないかという考え方もあります。清音とは濁音がない音のことです。

確かに、「鼻血」の「血」はひらがなにすると「ち」なので、それに濁音をつけて「はなぢ」とすれば正解にたどり着けます。

「缶詰」なら「詰め」は「つめ」なので、「かんづめ」が正解になります。

これなら簡単に判別ができるではないかと一見思えます。これを清音ルールとでも呼びましょう。

ところが、このルールだと上手くいかないものもあります。

例えば「地震」。

清音ルールを使えば、「地」は「ち」なので、「ぢしん」と書くのが正解となります。ですが、実際は「じしん」が正解です。
※実はこれについては別のプロセスで「じ」を使うのですが、それは後で書きます。

また「藤」は、二つの漢字がくっついた言葉ではないので、そもそも清音が分かりません。困ってしまいますよね。

こう考えると清音ルールでは使い分けには不十分であることが分かります。

 

国は基本「じ・ず」で書けと言っている

では、言葉を一応管理している国、つまり文部科学省は何と言っているのか。

国が仮名遣いについて定めた告示を「現代仮名遣い」と言います。絶対的なものではありませんが、教科書や新聞などではこれを基準にしています。

それによると、「ぢ」と「づ」に関しては例外的に使用する、と書かれています。

つまり、国としては原則として四つ仮名は「じ」と「ず」を使いなさいとしているのです。

では、いったいどんなときになら「ぢ」と「づ」を使うのでしょうか。

 

 

「ぢ」と「づ」を使う場合

1.同じ音を続けるとき

例えば、「縮む」は「ち○む」ですが、前が「ち」なので「ちぢむ」が正解となります。「鼓」は「つ○み」で、前が「つ」なので「つづみ」が正解です。

ただし、「いちじく」と「いちじるしい」はさらにこれの例外となっています。ややこしいですね。

2.二音がくっつき後ろの言葉が濁っているとき

これは先ほど書いた清音ルールのことですが、後ろの言葉のときという限定が付きます。

繰り返しになりますが「鼻血」は「鼻」+「血」で、「ち」が濁っているので「ぢ」が正解となるということですね。

ただし、実際には二音の組み合わせですが、二語の組み合わせだとはあまり認識されないものについては「じ」と「ず」を原則とし、場合によっては「ぢ」と「づ」を使ってもよいとされています。このルールは主観的であいまいだとして批判もあるようです。

例えば、「世界中」は「世界」+「中」で、「ちゅう」なので「ぢゅう」が本来の形ですが、一語のように使うことが多いので「せかいじゅう」が原則とされます。

でも、「せかいぢゅう」と書いてもよいということです。

このルールにのっとれば、「藤」はどちらの例外にもあてはまらないので「ふじ」と書くのが正解となります(なお、ややこしいですが歴史的仮名遣いでは「ふぢ」です)。

 

「地」などは要注意の言葉

さて、先ほど「地震」は「ぢしん」ではなくて、「じしん」が正解と書きました。

でもこれは二語がくっついており、それがはっきりしていますね。それならば、やはり「ぢしん」ではないのかという疑問がわきます。

しかし、今見たように清音ルールは後ろの言葉が濁るとき限定だったので、この場合は使われないルールです。でもそれならば、なぜ「じ」が正解になるのでしょうか。「じ」と書くのが原則だからでしょうか。

これは、漢字の音読みの種類が関係しており、少し複雑です。

「地」という漢字には、実はいくつか読み方があります。「地」は「ち」と読むのだから「ぢしん」のはずだと考えましたが、単体で「じ」と読む場合もあるのです。

例えば、「雨降って地固まる」ということわざでは「じ」と読みます。

この違いは読み方が入ってきた時期に関係していて、最初期に入ってきた読み方を「呉音」(ごおん)と呼びます。「地」では「じ」が呉音です。

その後に入ってきた読み方を「漢音」と呼び、「地」では「ち」が漢音です。

使い分けにルールがあるわけではなく覚えるしかないのですが、「地震」の「じ」は呉音なので、くっついて濁ったわけではなく、最初から「じ」であるために、「じしん」が正解となるようです。

同じ考え方で、例えば「布地」は一見すると、二語がくっついてしかも後ろが濁っているので「ぬのぢ」と書きそうですが、これも清音「ち」が濁ったのではなくて、最初から「地」を「じ」と読む熟語なので「ぬのじ」が正解になります。

このように「元々この漢字はそう読むから」という例外もあります。注意しましょう。

 

 

四つ仮名の使い分けルールまとめ

ここで、今までのルールをまとめてみます。

原則:「じ」と「ず」を使う

例外1:「ち」または「つ」が続くことで後ろの「ち」「つ」が濁るときは「ぢ」と「づ」を使う

例)「ちぢむ」(縮む)、「ちぢこまる」(縮こまる)・「つづみ」(鼓)、「つづく」(続く)

※例外1の例外:「いちじく」・「いちじるしい」ではこの例外を使わない

例外2:「二語がくっついており、かつその後ろが濁っているとき」に「濁った語の清音」が「ち」または「つ」なら、それぞれ「ぢ」と「づ」と書く

例)「はなぢ」(鼻+血)、「そこぢから」(底+力)・「たけづつ」(竹+筒)、「かんづめ」(缶+詰め)

※例外2の例外:二語がくっついていることが分かりにくい場合は「じ」「ず」を使う。ただし、「ぢ」「づ」を使っても構わない。

例)「せかいじゅう」(世界中/「せかいぢゅう」でも可)・「いなずま」(稲妻/「いなづま」でも可)・「ゆうずう」(融通/「ゆうづう」でも可)

例外1、2のさらに例外:そもそもその漢字を「じ」「ず」と読む場合は例外に当てはまっても「ぢ」「づ」とはしない。

 

一瞬立ち止まれば分かる?

ルールをまとめましたが、いかがでしょうか。

例外にさらに例外があったりしてややこしいですが、一瞬立ち止まれば分かるものも多いと思います。

まず、連続語なら簡単ですし、二語がくっついているときは清音ルールを使うので「濁らないときは?」と考えれば、たいていは正解にたどり着けます。

全然分からない!というときはとりあえず「じ」か「ず」を使えばいいわけです。なお、「地」などには注意を払っておきましょう。